Special Interview
「風雅の表現者たち」
~ 私流ELEGANCE ~
〈vol.3〉宮田靖士さん(ヘアメイクアーティスト)/
ミヤタ廉さん(LGBTQ+inclusive director)
上質な日本の美や文化、芸術を支え、唯一無二の“エレガンス”な生き方を体現する〈風雅の表現者たち〉。第3回目は、ヘアメイクアーティストとして第一線で活躍する中、2023年2月公開の映画『エゴイスト』でLGBTQ+inclusive director※として新たな挑戦を始めた宮田靖士さん。常に前に進み続け、新たなキャリアを築く、そのエレガントな生き方についてお聞きしました。
※LGBTQ+inclusive director:作品の制作において、脚本の段階から参加し、性的マイノリティに関するセリフや所作、キャスティングなどを監修
人生に迷い、模索し続けた20代
実は、ヘアメイクになるまでの人生は紆余曲折。実家が何代も続く日本料理店だったので、継ぐのが当然だろうと調理の専門学校へ通い、卒業後は料亭に入って修行の日々を過ごしました。しかし、全く自分の目指したいことではないと気が付き、結局1年程働いた後、退職。その後、以前から興味のあった美容師を目指すため、ヘアサロンで働きながら専門学校に通い、念願の美容師になったのですが、ここでもまた「何かが違う」と違和感を持ち…。
「自分がしたいことは何なのか?」を自問自答する中で、次に興味が湧いたのがメイクです。思い立ったら動くタイプなので、「僕、ヘアメイクになるので美容師辞めます!」と宣言。今思うと完全に若気の至りなのですが、思い切ってサロンを辞める決断をしました。「ヘアメイクになる」と辞めたものの、もちろん仕事はゼロ。結局、飲食店でアルバイトをしたりして「自分は何をしているのだろう」と悶々とする日々でした。
師との出会いが大きな転機に
そんな折、大きな転機になったのは、ずっとアシスタントにつきたい!と憧れていた日本ヘアメイク界の大御所、柘植伊佐夫氏が主宰のワークショップです。「もう、これが最後のチャンス」と1期生として参加させていただき、約10カ月間、本気でやりました。そしてワークショップ修了時、ちょうど柘植氏が佐藤江梨子さん主演の映画『キューティーハニー』のビューティー・ディレクターを務めることになり、なんと僕がメイクの現場チーフに抜擢。この現場が、ヘアメイクとして活動する大きな転機となり、仕事が自然と広がっていきます。
その人本来の魅力を
引き出すことを重視
メイクをする際に大切にしているのは、上から塗って美しくするのではなく、その人が本来持っている魅力を引き出すこと。僕のメイクは、あくまで最小限の補色で肌をチューニングしていく感覚です。そのため、まずは素肌を整えることを大切にしています。
師の柘植氏から教わった、すっぴんのように美しく見せる「引き算メイク」は、土台がしっかりしていて、肌にきれいなツヤ感があってこそ成立するものです。スキンケアが重要な役割を果たすので、信頼がおける製品に辿り着くために、かなりたくさんの製品を試しました。その中で出会った「メゾンレクシア」のスキンケアアイテムは、もう10年以上愛用。演者さんたちからも、香りや使用感がとにかくいいと評判なのが、長年使用している理由です。
メイク以上にこだわる、
心地よい空気作り
ヘアメイクの仕事は、演者さんのメイクやヘアを完璧に作るのは大前提で当たり前のこと。その上で「宮田でないといけない理由」が必要だと思っています。私が特に神経を集中させているのは、メイク現場の心地のよい雰囲気づくり。演者さんが気持ちよく過ごして演技や仕事に集中できるよう、距離感や温度感に気を遣うようにしています。例えば、何か言葉を発するにしても「この一言で距離が近くなりすぎないか」などは、どんな相手でも常に考えますし、どこの現場でも細やかな心遣いを忘れないようにしています。
そんな心地よさを演出するのに欠かせないのが、メゾンレクシア オラクルのミスト化粧水。スキンケアやメイクの仕上げに使うのはもちろんですが、ローズのみずみずしい香りがとても落ち着くので、演者さんがいらっしゃる前にメイクルーム全体にシュッと吹きかけて、少しでもリラックスいただけるようにしています。
新たな立ち位置を模索し、
生き方をシフト
働き方や生き方に対して深く考えるようになったのは、コロナ禍がきっかけです。ヘアメイクを辞めてしまう方が周りに出始めたり、自分が年齢を重ねてきたこともあり、今のままの熱量を保ちヘアメイクとして進み続けていけるか?を考えるようになりました。ただ、何がしたいかというのがはっきりと見えず、模索する日々でした。そんな矢先、担当させていただいている鈴木亮平さんが主演される映画『エゴイスト』のヘアメイクデザインとしてお声がけいただいたのが、 新たな道を見つけるきっかけになりました。
この映画は、ファッション誌の編集者として働く浩輔(鈴木亮平)と、母を支えながら暮らすパーソナルトレーナーの龍太(宮沢氷魚)が出会い、男性同士が惹かれ合っていく姿を描くストーリー。脚本は準備稿の早い段階で拝見させていただき、それはそれできちんと描かれているものではありましたが、私自身がLGBTQのゲイ当事者でもあり、何より原作の大ファンでもあったので、僅かながら感じる設定の違和感などを感じてしまう部分が出てきまして…。
監督から意見を求められることも多くなり、結果、脚本や演出へのアドバイス、キャスティングや取材のコーディネートなど僕の担当領域が増えていき、これは中途半端に関わるようなことではない!と。急遽、優秀なヘアメイクさん2人に現場は担当していただき、僕はヘアメイクデザインという役割にスイッチし、LGBTQ+inclusive directorという新たな肩書きのもと、「ミヤタ廉」という名義で正式に携わることになりました。
ストーリーに深みを出す
LGBTQ+inclusive directorの使命
テンションや話し方、声の大きさや所作など、ほんの些細なことでも気になる部分は監督や亮平さんに伝えながら進行させていただきました。ゲイである役の場合、言葉遣いを強調する形で作り込もうとしがちなのですが、それだけだと、どうしてもやりすぎたり、違和感が出てしまう。手の動きや仕草を過剰なまでにエレガントに表現する事を「手ホゲ」と言ってるのですが、この表現にも浩輔(鈴木亮平)らしさを前提にかなりこだわりました。
例えば、龍太(宮沢氷魚)は、言葉や動きといった表現方法でキャラクターを作ることはあまりせずに、氷魚さんの持ち合わせる透明感や柔らかな部分をそのまま活かす形に重点を置きました。それと対比してビジュアルは、龍太の持つ無垢でやんちゃな少年っぽさを際立たせるように「90年代のスケーターっぽいセンターパーツのヘアスタイルにする」など、かなり拘っています。浩輔なら「店員さんを呼ぶときは、もっと脇を締めて」とかちょっとしたことなのですが、そこを少し補正してあげるだけで演技により現実味が出ます。
そもそも僕は「ゲイっぽく見せる」という事が何なのか?はあまり考えないようにしています。一人ひとりが皆違うように、ゲイというセクシュアリティをカテゴライズして「っぽく見せる」という考え自体が、そもそも間違っていると思っています。今回であれば斎藤浩輔というキャラクターはどういった人生を送ってきて、結果どういう話し方をして、どういった動きを見せ、どうやって笑い、そして泣くのか?そこに重点を置き、亮平さんと作り上げていったものです。そうして仕上がった1人のキャラクターが醸し出すリアルな空気感は、LGBTQ+inclusive director が居てこそと思っていただけたら嬉しいですし、ぜひ劇場でご覧いただけると幸いです。
自分の中の“違和感”を
そのままにできない
これはもう昔からなのですが、「?」という違和感をもったら、そのままにして居られないタイプ。生き方や仕事選びに限らず、持っている物や化粧品など、すべてにおいてなのですが、ある時ふと「何か違う」と感じると、居ても立っても居られなくなる。例えばメイク道具一つでも「収まり方に美しさがない」と思ったら全部入れ直します。メイクアイテムも自分が納得するものだけにしないとスイッチが入らないので、探すのも大変ですし、かなり厳選しています。メゾンレクシアの化粧品のように、長年、違和感なく使い続けているのは本当に稀ですので、すごく貴重です。
今回、メゾンレクシアで作らせていただいたバッグ※も、化粧品同様に、今の自分に心地よくフィットする上質でシンプルなものをオーダーしました。昔は、ビビッドで派手なデザインにも惹かれたのですが、意外と使えないまま終わってしまうことも多くて…。今はさまざまな経験や年齢を重ねたこともあり、シンプルで洗練されたものに辿り着きました。
僕はモノを買う時には、具体的なシーンやシチュエーションをイメージして買い物をするタイプで、今回のバッグでいうと、冠婚葬祭のフォーマルな場に使えるものをとお願いしました。ブラックで正統派なルックスでありながらも、皮の質感が柔らかくて堅苦しくない雰囲気がいいですよね。さっそく知人の結婚式に持って行ったのですが、使い心地も良くて、とても気に入っています。
すべてにおいて
品格と色気を忘れない
仕事でもプライベートでも、特に意識しているのは「品格と色気」があるかどうか。僕自身の立ち振る舞いに関してはもちろんですが、メイク道具やアイテムを選ぶときも、品があるかどうかが基準になっています。演者さん自身がどう見られるか、自分の作り方ひとつで大きく変わってきますから、品とその人の持ちあわせる色気の滲むメイクに仕上げることは常に意識。
映画『エゴイスト』でも最初に監督と共有したのは、「品がある現場にしましょう」ということ。テーマがテーマだからこそ細かい所作やセリフ、宣伝用のポスターの書体一つを選ぶにしても、監督やスタッフ全員で驚くほどの時間をかけました。上品さは細部にこそ宿ると思うので、「全てにおいて品格と色気を忘れない」そのこだわりこそがエレガントだと感じます。
唯一無二の存在として、
新たな道を作りたい
LGBTQ+inclusive directorという仕事は、世界的にはニーズが高まっている重要な役割ではあるものの、日本では同業の方もおらず、まだまだ認知が低い。ただ、昨今のドラマや映画などの映像作品においてLGBTQが描かれることは多くなってきており、より良い作品を生み出すために、今後欠かせない専門職になっていくと考えます。今までヘアメイクとして培ってきた演者さんとの距離感や空気作りのコミュニケーション力が活かせる仕事でもあるので、自分の強みを生かしながら、LGBTQ+inclusive directorという仕事を広めていきたいと思っています。
またLGBTQ+inclusive directorという新たな挑戦を始めたことで、「記憶に残る作品を作るというのはどういうことか?」を、より広い視点で考えることができ、ヘアメイクの仕事に対する向き合い方も変化しました。以前にも増して、役者さんが演じるキャラクターをどう作りこんでいくかを考えるようになり、またそれを後進にも継承することで、さらに進化していけそうです。今後はヘアメイクの宮田靖士、LGBTQ+inclusive directorのミヤタ廉。両者が互いに相乗効果を生むことで、さらなる良い作品づくりに貢献できればと考えています。
2023.2.10
映画『エゴイスト』 2023年2月10日(金)全国公開
出演:鈴木亮平 宮沢氷魚 阿川佐和子
原作:高山真「エゴイスト」(小学館刊)
監督・脚本:松永大司
エッセイスト・高山真氏が綴った自伝的小説を「トイレのピエタ」の松永監督が映画化。14歳で母を亡くしゲイである本当の自分を押し殺して思春期を送り、どこか虚勢を張って生きているファッション編集者の浩輔が、母を支えながら健気に生きる美しきパーソナルトレーナー龍太との出会いをきっかけに、愛について自問自答する姿を描いている。
MIYATA YASUSHI / MIYATA REN(宮田靖士/ミヤタ廉)
ヘアメイク/LGBTQ+inclusive director。サロンワークを経たのち、柘植伊佐夫氏主催のワークショップに参加。そこで様々な経験を積み、卒業後はフリーランスとして活躍の場を広げる。2017年にTHYMON Inc.に所属し、映画やCM、雑誌など幅広いジャンルを手掛け、各方面からの信頼も厚い。また2022年からは新たに「ミヤタ廉」という名でLGBTQ+インクルーシブディレクターとしても始動し、多岐にわたって活動中。