Special Interview

「風雅の表現者たち」
~ 私流ELEGANCE ~

〈vol.4〉岡西佑奈さん(書道家・アーティスト)

上質な日本の美や文化を支え、唯一無二の“エレガンス”な生き方を体現する〈風雅の表現者たち〉。第4回目は、墨象・アートライブパフォーマンスなど、書の枠にとらわれず活躍の場を広げ続ける書道家の岡西佑奈さん。そのエレガントな世界観、魅力に迫ります。

書道家、サメの研究、舞台女優…
自分の道を探し求めた学生時代

書を始めるきっかけは、幼少期に親の勧めから書道教室に通ったこと。いつのまにか書を書くことに夢中になり、そのまま高校生になるまで続けました。その後大きな転機となったのは、蜷川幸雄さんの舞台『マクベス』を見た時。涙が出るほど感動し、女優として舞台に立ちたいと強く思うように。それまでずっと好きで続けていた書の道、ライフワークだったサメの研究とも悩み、考え抜いた末に女優の道へ。数多くの作品に出演させていただき、順調にキャリアを積み重ねてはいたのですが、いつしか心の中に、本当にこの道を続けていくのだろうかという迷いも芽生えていました。

雷に打たれたような衝撃から、
再び書の道へ

実は女優業を志してからは、書道には一切触れず、道具もすべて封印していました。そんな折、知人夫婦が昔の私の書を見て、「これを書いたの?すごい!絶対続けた方が良い」と言ってくださったのをきっかけに、その夜、久しぶりに書いてみることに。すると…自分の中にビリビリビリ!と稲妻が走ったのです。「そうか、私ずっと書きたかったんだ!」と、眠っていた想いに気づいた瞬間でした。そのまま朝までひたすら夢中で書き続け、この日から「書道家として生きていく」と決意し、動き始めます。

書道家を目指すといっても、本当に0からだったので苦労もしました。それでも「書道が心から好き」という想いに気づけたことで、「何があっても諦めない」という自信だけは常にあって…。3年目に初めて個展を開いたのを機に、活動の幅が広がっていきました。

水墨画との出会いが、
表現を広げるきっかけに

書に次いで習い始めた水墨画には、とても衝撃を受けました。同じ道具を使うのに、表現方法が正反対。書道は二度書き禁止ですが、水墨画は上から書き足したり、色を重ねたり、ぼかしていったりと自由。これが私にはとても新鮮で、ぜひ書に取り入れてみたいと試み、完成したのが、「墨象(ぼくしょう)」です。

転機となった作品「墨象 記憶」。初めて文字から解き放たれ、自分の心象を描いた

書道には元々、絵画的な要素もあって。例えば「山」という漢字が、三つの山が連なっている形から作られているように、書道とアートは実は近いところにあるのではと、昔から思っていました。それが水墨画を始めたことで一気に道が開けて。独自のリズム感や心象を表現するアートとして、書に新たな命を吹き込み、魅力を伝える作品を生み出すことにつながりました。

自然からのインスピレーションが、
クリエイティブの原点に

新たなインスピレーションを得るために重要なのが、自然を感じる時間です。山へ行ったり、海に潜ることも大好きですが、近所の公園で咲き誇る花を愛でたり、落ちている葉を眺めたり、些細なひとときを大切にしています。自然から生まれたものって、直線はなくすべて曲線。花びらが舞い散る姿、空を流れる雲、木の枝の一つひとつの様、自然が生み出す滑らかな美しさは、私が描きたい姿そのものです。だからこそ、自然の中でのひらめきを大事にしています。

「青曲(せいきょく)」シリーズは、幼少期よりこよなく愛する、サメの滑らかな動きや自然が生み出す曲線美を表現した作品

自然を感じるのと同じくらい欠かせないのが、心身を浄化してくれる「香り」。アロマのディプロマも取得し、香水を自分で調香して作るくらい大好きです。書を書く前の精神統一に、座禅とともに香りで呼吸を整えます。書は心を表現するようなものなので、整っていない荒い呼吸では、良い作品は生まれません。だからこそ、思わず深呼吸したくなるような、ウッディ系の自然な香りで心身を整えています。

家での香りの活用シーンは、主に寝る前とバスタイム。最近とても気に入っているのは、メゾンレクシアのヘア&スカルプケア用トリートメント「プレイフルエッセンス」ですね。ハーバリックで心地よいウッディ・スパイシーの香りは、まさに深い森の中にいるよう。1日の疲れを癒すのに、欠かせないアイテムになっています。

禅を通じて培った、
心を研ぎ澄ます断捨離スタイル

禅宗である曹洞宗の大本山、永平寺での禅の修行をきっかけに、物を少なくして生きていくライフスタイルにシフト。周りが物であふれていると、心にも大きく影響が出てきますから、心身ともにすっきりさせ判断力を研ぎ澄ますという意味でも、衣類や家の中に置くもの一つひとつに関して厳選するようになりました。禅の瞑想も同じなのですが、本当に大事なものだけにフォーカスし、今に集中することを意識しています。 

持ち物の中でも特に筆は、小学校の頃のものを今でも使うほど長く大切にしています。筆は育つもので、使っているうちに削られて、自分が書く癖に合った書きやすい形になっていく。だからこそ筆に限らず、物を持つ際には「一生持てるものかどうか」を吟味して選ぶことも、心を研ぎ澄ます上で、大事なことだと思っています。

普段から持ち歩いている荷物もすごく少ないです。お財布も持たずにカードのみのことが多いので、スマートフォンと家の鍵、あとはリップとハンドクリームくらいに厳選し、メゾンレクシアでセミオーダーメイドした、小さめサイズのバッグを愛用しています。
※2024年、メゾンレクシアレザーは新ブランド「MITTACA」に生まれ変わりました。

かなり細かな要望を聞いていただき完成したこのバッグ。デザインに対しても、そぎ落とされたシンプルさにこだわっています。例えばショルダーの紐の長さを、私ピッタリに調節してもらうことで、スマートで無駄のないルックスが完成。本来ついている金具もできるだけ外し、平らではなく丸い紐に変更していただいたことであたたかな印象をプラス。角を取ったことで、私の好きな自然がもつ曲線の美しさを取り入れることができました。

本物のエレガンスとは、
そぎ落とされた美しさ

人の魅力や美しさに関しても同様に、そぎ落とした中にこそ、真のエレガンスがあるように感じます。人生経験を通じて学び、積み重ねてきた上で、本当に大切なことだけにフォーカスし、シンプルに生きる。シンプルって時に表現が難しいのですが、初めから何もないシンプルではなく、さまざまな経験が血肉となった上で、そぎ落とされた潔さ。私の憧れですし、目指したい姿です。

周りでも素敵だなと思う方がたくさんいらっしゃるのですが、皆さん決して着飾っているのではなく、あくまでもシンプル。内面から溢れる気品や優雅さこそが、エレガンスを感じさせる本当の理由だと考えます。

余計なものをそぎ落とし、
あるが儘に生きていく

仏教用語で「法爾自然(ほうにじねん)」とも言われる「儘(まま)」という漢字は節目ごとに書き続けていきたいほど好きな字。儘のつくり“盡”は、“尽”の元となった旧字で、象形としては「器の中をはけではらい、空にする様」を表しています。空にする、尽きることが儘であるならば、「あるが儘」こそ余計なものをそぎ落として生きる姿なのかもしれません。

ここ数年、コロナ禍や私生活での環境の変化など、災いも幸いも含め大きな自然の流れに身を任せる中で、自分自身と対峙する機会が多くありました。同時に、日本の良さを再認識する事も多く、改めて「書ともう一回しっかり向き合いたい」という想いが強くなりました。土台としての書にしっかり取り組みながらも、新しい作品をどんどん生み出していきたい。自分自身に嘘をつかず、想いに正直に、この先も一生「あるが儘」、書道を続けていきたいと心から願っています。

2023.6.02

YUUNA OKANISHI (岡西佑奈)

書道家/アーティスト
幼少期より書を始め、高校在学中に師範免許を取得し受賞多数。水墨画は関澤玉誠に師事。書の域を超えて、墨象や絵画も手掛け「青曲展」など国内外で個展も開催。作品『潮』の中国天津美術館への収蔵、世界遺産東大寺への奉納、各国での個展・ライブパフォーマンス、アート作品集の刊行など、枠にとらわれない活躍で国内外から注目される書家。

https://okanishi-yuuna.com/

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