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香水は個性を表現し、周りの人に与える印象をコントロールできるアイテムです。ですが香りは感覚的なものなので、選び方が分からない人もいるかもしれません。そんな人に向けて、香水を選ぶ際のポイントや香りの種類、香水の魅力を最大限に活かすための付け方、おすすめのアイテムを紹介します。
10月1日の「香水の日」をご存知でしょうか?日本フレグランス協会が制定し、一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された日です。この時期はちょうど、秋冬へ向けて新調したファッションに合わせて、香水への関心が高まる季節。さらに、クリスマスから年末にかけては、香水マーケットが賑わいをみせます。また、香水文化が根付いているフランスでは、毎年10月1日頃に多くの新作香水が発売され、注目を集めています。今回は、日本で唯一の香りの専門誌【パルファム】の編集長・平田幸子さんに、香水や香りの魅力についてお伺いしました。
目次
香水や香りの魅力を深堀りするために、まずは、その歴史について教えてください。
「香水を指す『パルファム』という言葉の語源はラテン語の『Per Fumum(ペール フムーム)』。『煙によって』という意味があり、聖書にも登場します。昔から祈りの際に『香』を焚く習慣があり、日本でも仏教とともに香が伝えられました。今でもお葬式で故人の冥福を祈る時に香を焚く(お焼香)など、香りと祈りは世界中で関連が深いのです。
また、古代エジプトでは、『ミルラ』と呼ばれる香料を体の中に詰めたことがミイラの語源になっています。香料は匂い消しでもあり、防腐剤や保存料としても使用されていました。
日本では、東大寺に保存されている名香『蘭奢待(らんじゃたい)』を織田信長が削りとった逸話も残されています。日本には古くから『香道』という文化があり、戦国時代には出陣する前に兜や鎧に香を焚き込めました。現代のお焼香にも通じます。また、香りを虫よけ効果として取り入れていたことは源氏物語にも登場します。」(平田編集長)
香りは昔から神聖なものとして用いられていたのですね。そんな香りを液体にした香水は、どのように世界へ広まっていったのでしょうか?
「香水が世に広まったきっかけは、世界最古の薬局として知られる『サンタ・マリア・ノヴェッラ』です。修道士達が栽培していた花やハーブなどの薬草を調合し、体を拭くためのオーデコロンのようなものを作ったのが始まりといわれています。また、当時イタリアのフィレンツェで絶大な権力を持っていたメディチ家の『カトリーヌ・ド・メディシス』が、フランス王家へ輿入れする際にオーデコロンや調香師を連れていったことで、フランスに香りの文化が伝わりました。」(平田編集長)
フランスでは今も香水文化が根付いていますよね。日本にはいつ頃、香水が入ってきたのですか?
「日本に香水が入ってきたのは江戸時代。長崎にローズウォーターが持ち込まれたことが始まりといわれています。さらに、坂本龍馬も香水を愛用していたとの記述が残されている他、夏目漱石の小説にも『ヘリオトロープ』と呼ばれる香水の記述があります。この2人の偉人のように、海外と接点のあった人から使用され始めたようです。」(平田編集長)
一口に香水といってもオードトワレやオードパルファムなどさまざまな種類があり、どのように使い分ければよいのか迷ってしまいます。初心者にも使いやすいものを教えてください。
「フレグランスと呼ばれているものは、香水の濃度が低い順に『オーデコロン』『オードトワレ』『オードパルファム』『パルファム』に分類されます。香水初心者は、オードトワレやオードパルファムから始めるのがおすすめです。オーデコロンも濃度が低くつけやすいといわれますが、海外では香水というよりも体を拭くためのものとして作られたので、フレグランスの種類としては少ないかもしれません。
その他、普段から香水を使い慣れていない人がオードパルファムを使うと、香りを強く感じてしまうことがあります。香りの好みや香りの経験値に応じて選ぶと良いでしょう。」(平田編集長)
同じ香水でも時間の経過で香りが変化すると聞きました。最初の香りだけではなく、変化後の香りも自分にマッチしているかを確かめたい時は、どうすれば良いでしょうか?
「香水は時間によって香り立ちが変化します。多くの香水は最初に香る『トップノート』に柑橘系の香りを使用していることが多いので、初めて香水を使う際には、普段から慣れ親しんでいる花やフルーツの香りを選ぶのがおすすめです。
トップノートは香水の第一印象ですが、香りが約5分程度で揮発してしまうので、その後の香り=『ミドルノート』が本来の香水を位置付けるものといえます。しかし、香水を選ぶ際には最低でも5分以上待たないと、本来の香水のテーマが見えてきません。そのため店頭で香水を選ぶ時は、つけてから数分後に再度香りを確かめてみると、自分の肌に合っているか、どんな風に変化するかを感じられます。」(平田編集長)
香水などの香りは脳に働きかける特徴もあるのだとか?
「嗅覚は赤ちゃんが胎内にいる時から備わっている、生きるために必要な能力です。五感のなかでも直接脳に届ものなので、上手に香りが扱えるとその人の魅力や印象をアップさせることができます。」(平田編集長)
自分だけではなく、周りの人にも良い印象を与えるスマートな香水の使い方について、アドバイスをお願いします。
「香水はアルコールなので、下から上に立ち上ります。そのため、あまり体の上の方につけないのがポイントです。また、体の内側につける方が香り方がまろやかになります。控えめにつけるのであれば、両方の足首やひざ裏がおすすめ。少し多めにつけたい時は、足首やひざ裏に加え、ウェストにもつけると良いでしょう。
日本は、海外ほど香水の文化が浸透しきっていないこともあり、手首につけると少し強すぎる可能性があります。周りの反応を伺いつつ、つける位置や量を工夫してみてください。香りは比較的持続しやすいので、おおよそ半日以上は香水をつけ足す必要はありません。」(平田編集長)
日本人に合う香りや好まれる香りはあるのでしょうか?
「日本人はローズのような優しい香りを好む人が多いようです。普段から香水などをあまり使わない人でも、ローズの香りは親しみやすいでしょう。」(平田編集長)
人によってマッチしやすい香りがあると聞きました。その人に合う香りを知る方法を教えてください。
「人にはそれぞれ、自分自身が持つ匂いがあります。これは人によって異なるので、同じ香水でも香り方が変わりますし、香水とのマッチングもそれぞれ。身につける香水自体がその人の個性になります。食べ物やファッションなどにこだわりのある人は、香りにもこだわりたいことが多いので、スパイシーな香りなど少し面白みのある香水をプレゼントすると喜ばれるでしょう。」(平田編集長)
贈り物に香水を選ぶ際のポイントを教えてください。
「香水をギフトとして贈る場合、相手の趣向が分からないとどう選んでよいのか迷ってしまいます。しかし、日本人は食生活面から見ても好みに大きな差を感じることがないので、市販の香水であれば、大きく外れることはないでしょう。また、男性らしい女性らしいといった区別よりも、その人がどういう匂いを好むかが重要なので、一概に男女の区別でおすすめの香りというものはありません。」(平田編集長)
“使う人自身が、優雅な心になれること”をコンセプトに、2014年に誕生したメゾンレクシアのフレグランス。天然香料という悠久の価値に、パフューマーの智恵と技術を調和させた “心を美しくする香り” が、纏う人の肌と心に、唯一無二の物語を紡ぎます。
中でも男女問わず人気の高い香り「ヴァーダント」を、今回、平田編集長にも試していただき、おすすめの使い方を伺いました。
「トップノートにレモンやライムなどの清々しい香りがあり、テーマにある朝露のような洗練された大自然を感じる香りです。おしゃれをして出かけたい日にも使えますが、私のおすすめは、気分の切り替えに使う方法。例えば在宅での仕事中など、部屋の中に吹きかけると気分転換に最適です。また寝る前に使うのも良いでしょう」(平田編集長)
「香水は周りの人へ好印象を与えるだけではなく、自分の心の安定にも役立ちます。特に自然香料を使用しているものは、香りに奥行きを感じられるでしょう。また、香水の値段と香料は関連しており、安価な香水は合成香料を使用しているケースが多く、香料が薄いので香りが持続しません。
香水は一度購入すると半年以上は使用するので、いつも纏っていたいと思える自分の好みの香りを見つけて愛用するのがおすすめです。さらに、シチュエーションに合わせて香水を使い分けると、より深みが広がり生活が楽しめると思います。」(平田編集長)
香水や香りは知れば知るほど奥深いものですね。洗練された香りに包まれ、リラックスできる香水を探してみてはいかがでしょうか?
平田幸子/香水評論家
香水評論家の父、平田満男の後を継ぎ香りの専門誌【パルファム】を1978年に発刊。現在も編集長を務める。香りの普及、啓蒙活動のため、書籍や雑誌の監修・執筆、カルチャースクールの主催など幅広く活動。また、香りの美術展やイベントも参画している。フランス調香師協会会員や日本調香技術普及協会理事としても活躍中。
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