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眞鍋 憲正(まなべ かずまさ)先生
マイクロバイオームとは、自然界や人体に存在する微生物の集団のこと。最近の研究で、健康な身体・肌と深く関係していることが判明しました。特に皮膚表面の菌(皮膚常在菌)のバランスを整えて美肌を育む「マイクロバイオームケア」の研究が進み、注目が集まっています。マイクロバイオームの概要や美肌との関係、菌のバランスを整える方法について解説します。
目次
眞鍋 憲正(まなべ かずまさ)先生
自然界や人体に存在する微生物の集団を「マイクロバイオーム」と呼びます。特に、腸内に存在するマイクロバイオームは健康に、皮膚のマイクロバイオームは美肌に関与するとされ注目を集めています。まずは、マイクロバイオームの基本情報から見ていきましょう。
マイクロバイオームとは、土壌や水中、人体に存在する微生物コミュニティのこと。多様な微生物(細菌・真菌・ウイルスなどの常在菌)から成り立ち、そのバランスが周囲の環境に影響するとされます。人体においては腸内、皮膚、口腔、鼻腔、呼吸器など、さまざまな場所に存在しています。
似た言葉に「腸内フローラ」がありますが、「腸内フローラ」は腸に住む乳酸菌やビフィズス菌など、腸内の細菌のみを指します。それに対し、マイクロバイオームは細菌のみでなく、カビの仲間である“真菌”や、細菌にのみ感染する“ウイルス”も含めた、菌全体の総称および遺伝情報全体を指す言葉です。
人体に存在するマイクロバイオームは、健康維持や病気の発症に関係しているとされます。人間の腸内には約100兆個の細菌が存在していると言われ、腸内のマイクロバイオームは「腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)」と呼びます。近年の研究により、腸内のマイクロバイオームは年齢や食事、運動などの影響を受け、全身の健康状態に関わっていることが分かってきました。
また、腸内のマイクロバイオームは薬の効き方にも関係するようです。がんの免疫療法において使用する免疫チェックポイント阻害薬が効きにくい患者に、薬の効きやすい患者の便に含まれている腸内細菌叢を移植すると、治療効果が出やすくなるという海外のデータがあります。最近の研究では、さまざまな疾患とマイクロバイオームの関連性も判明しています。
<マイクロバイオームと関係があるとされる疾患>
さらに皮膚に存在するマイクロバイオームは、肌トラブルや美肌に関係していると言われています。
人体のマイクロバイオーム研究は、仕組みを解明すると健康維持や病気の予防・治療、美容に役立つと注目されている分野です。既に自身の腸内細菌を検査して、腸活に活かすサービスも存在しています。
最新の研究により、皮膚に存在するマイクロバイオームのバランスが、肌の健康に関与していることが分かってきました。この皮膚に常在するマイクロバイオーム(皮膚常在菌叢)は、善玉菌、悪玉菌、日和見菌(ひよりみ菌)の3種類に分かれます。それぞれの菌の特徴や働きを紹介します。
善玉菌は「美肌菌」とも呼ばれ、肌にとって常に良い働きをする菌のこと。善玉菌の代表である表皮ブドウ球菌は、汗や皮脂からグリセリンと脂肪酸を作り出しています。グリセリンは肌のうるおい維持、脂肪酸はバリア機能を保護する成分です。
その他、善玉菌には肌荒れやアトピー性皮膚炎を引き起こす悪玉菌を抑制する成分を出し、肌を守る働きもあります。
悪玉菌とは、普段は無害ですが増えすぎると肌荒れなどのトラブルを引き起こす菌のことです。悪玉菌の一種である黄色ブドウ球菌は皮膚がアルカリ性に傾くと増殖して、肌荒れやアトピーの原因になるとされています。
日和見菌とは、マイクロバイオームのバランスによって良い方向にも悪い方向にも働く菌です。例えば、ニキビの原因とされるアクネ菌は日和見菌の一種です。皮膚のマイクロバイオームのバランスが整っている時は善玉菌の働きをし、肌を弱酸性に保って悪玉菌を抑制します。
しかし、ストレスなどが原因で皮脂が増えすぎると、そこにアクネ菌が定着し増殖。その結果、毛穴をふさぎニキビを発生させてしまいます。
皮膚のマイクロバイオームのバランスを整えると、肌を保護するバリア機能を高め、健康で美しい肌へ近づけるとされています。マイクロバイオームと美肌の関係について詳しく解説します。
最新の研究により、皮膚表面のマイクロバイオームのバランスを整えると、肌のバリア機能を高められることが分かってきました。バリア機能とは、外的刺激から皮膚を守る機能のこと。乾燥や摩擦、雑菌や紫外線などから肌を守り、水分を保つ役割があります。皮膚の健康を守るバリア機能は、肌の美しさを保つ上で重要な存在です。
人の肌には1,000種類以上の菌が存在していますが、菌そのものが肌トラブルを引き起こすわけではありません。肌のコンディションが乱れるのは、菌のバランスが崩れた時です。
そのため、皮膚表面のマイクロバイオームのバランス保持は、肌のバリア機能の強化につながります。バリア機能が高まると美肌を保てるだけでなく、炎症などの肌トラブルの予防も期待できるなど、良いことずくめです。
近年、皮膚のマイクロバイオームについての研究で、さまざまな事実が判明しています。マイクロバイオームのバランスは人によって異なり、指紋のように誰ひとり同じではありません。
例えば善玉菌(表皮ブドウ球菌)の割合が高い人は肌の水分量が多く、みずみずしいという特徴を持ちます。一方、アトピー肌の人は菌のバランスが崩れることで悪玉菌(黄色ブドウ球菌)の多い状態が慢性化している、敏感肌の人は善玉菌(表皮ブドウ球菌)の割合が低いなどの研究結果があります。
皮膚のマイクロバイオームが乱れる主な原因は、次のように外的要因と内的要因に分類されます。
主な原因 | |
外的要因 | ・紫外線
・大気汚染
・洗顔、クレンジングなどによる刺激や摩擦
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内的要因 | ・年齢
・栄養不足
・ストレス
・喫煙
・生活習慣
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皮膚のマイクロバイオームのバランスを整えると、健康で揺らぎにくい肌に近づけると考えられています。マイクロバイオームのバランスを整える具体的な方法を紹介します。
正しい方法で洗顔やクレンジングをすることは、皮膚のマイクロバイオームのバランスを整える上で重要です。洗顔やクレンジングの際に洗いすぎたり、摩擦を与えたりすると常在菌が減り、マイクロバイオームのバランスが乱れてしまいます。
洗顔時は洗顔料をしっかりと泡立てることが大切です。泡を転がすように優しく洗い、肌を擦らないようにぬるま湯で洗い流しましょう。すすぎ後の肌に残った水気は、タオルでそっと押さえて拭き取ります。
また、洗顔料やクレンジング剤は洗浄力が強すぎず、肌に合ったものを選ぶのもポイントです。
皮膚のマイクロバイオームを整えるには保湿も重要です。肌は乾燥するとアルカリ性に傾き、善玉菌が減ってしまいます。それによって悪玉菌が増殖すると、炎症や肌荒れといった肌トラブルにつながってしまうことも。
皮膚のマイクロバイオームを整えるために、保湿力のある化粧品を使う、冷暖房で部屋が乾燥している時は加湿器を使う、外出時はミスト化粧水を携帯するなどの対策を取りましょう。
紫外線予防も皮膚のマイクロバイオームを整える上で重要なポイントです。紫外線の波長は皮膚のマイクロバイオームにダメージを与えます。紫外線は季節や天候を問わず降り注いでいるので、日焼け止めは年間を通して使うのがおすすめ。日焼け止めは肌に合ったものを選び、擦らないように優しく塗りましょう。
その他、日傘や帽子、UVカット効果のある服なども併用すると、肌への紫外線ダメージをより防ぎやすくなります。
皮膚のマイクロバイオームに働きかける成分が含まれた、スキンケア用品を使用するのも良い方法です。マイクロバイオームの環境を整える成分に、プレバイオティクスとプロバイオティクスがあります。
プレバイオティクスは、善玉菌を増やすエサとなるオリゴ糖や食物繊維などの総称。プロバイオティクスは肌を弱酸性に保つなど、美肌効果をもたらす成分を含む乳酸菌培養液や発酵液などのことです。
プレバイオティクスやプロバイオティクスが含まれた化粧品を使うと、皮膚のマイクロバイオームのバランスを整える効果が期待できます。最近の研究では、肌に親和性の高い「植物由来」のプレバイオティクスや、プロバイオティクス成分が配合された化粧品開発も進み、注目が集まっています。
腸内のマイクロバイオームのバランスが乱れると、肌のコンディション低下につながります。例えば、便秘になって便が腸にとどまると、アンモニアや硫化水素といった腐敗物質が腸内で作られます。血管を通じて全身を巡った腐敗物質が肌に到達すると、吹き出物や肌荒れといったトラブルが起こることも。
そのため、美肌を手に入れるには腸内環境の改善も大切です。腸内環境を整える乳酸菌などの善玉菌を含むプレバイオティクスや、腸内細菌のエサになるプロバイオティクスが含まれる食品を積極的に取り入れると、腸内のマイクロバイオームのバランスを整えやすくなります。
おすすめの食材 | |
プレバイオティクス | ・キャベツ ・バナナ
・玉ねぎ
・ごぼう
・さつまいも
・キノコ
・ブロッコリー
・豆類
・海藻類 など
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プロバイオティクス | ・納豆 ・ヨーグルト
・味噌
・キムチ
・ぬか漬け
・甘酒 など
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自然界や人体に存在する微生物の集団であるマイクロバイオーム。皮膚においては菌のバランスを整えることでバリア機能が高まり、すこやかで美しい肌へ近づけると注目されています。菌は目に見えませんが、私達の健康や肌を支えてくれる存在です。今回紹介したマイクロバイオームのバランスを整える方法も参考に、肌の菌活に取り組んでみませんか。
UT Austin所属。 信州大学医学部卒業。 信州大学大学院疾患予防医科学専攻スポーツ医科学講座 博士課程修了。 〇専門領域:総合内科、美容皮膚科 〇研究分野:運動生理学