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山下 真理子 先生
美肌菌は、今注目されている「マイクロバイオーム」の一つで、すこやかな肌をつくる役割を担う善玉菌のこと。肌には美肌菌(善玉菌)以外に悪玉菌や日和見菌も存在し、これらのバランスによって肌の状態が変わります。そんな美肌菌の役割や働き、増やす方法について紹介します。
目次
山下 真理子 先生
美肌菌とは、皮膚上の常在菌叢(じょうざいきんそう)である「マイクロバイオーム」の一つです。
人の肌には1,000種類以上の菌が存在しています。マイクロバイオームには大きく善玉菌、悪玉菌、日和見菌(ひよりみきん)の3種類があり、美肌菌と呼ばれているのは善玉菌です。
美肌菌(善玉菌)、悪玉菌、日和見菌、それぞれの特徴は下記の通りです。
■美肌菌(善玉菌)
肌のバリア機能を整え、うるおいを保つ菌です。
<代表的な菌>
表皮ブドウ球菌
■悪玉菌
普段は無害ですが、増殖すると肌荒れやアトピーの原因になるなど、肌トラブルを引き起こす菌です。肌が弱アルカリ性に傾いた時に増殖します。
<代表的な菌>
黄色ブドウ球菌
■日和見菌
マイクロバイオームのバランスによって、美肌菌・悪玉菌のどちらの働きもする菌です。過剰な皮脂分泌や毛穴の詰まりで増殖すると、ニキビの原因になります。
<代表的な菌>
アクネ菌
マイクロバイオームのバランスは指紋のように人それぞれ異なります。美肌菌である善玉菌を増やし、バランスを整えることで美しい肌に近づけます。
美肌菌にはバリア機能を整え、うるおいを保つ役割があります。さらに、肌トラブルを招く悪玉菌の増殖を防ぐ働きも。美肌に欠かせない美肌菌の役割や働きを紹介します。
バリア機能は肌の乾燥を防いだり、乾燥や摩擦、雑菌や紫外線といった外的刺激から肌を守ったりする機能で、すこやかな肌を保つために欠かせません。バリア機能が正常に働くには、肌が弱酸性の状態であることが条件です。美肌菌は皮脂を分解し、脂肪酸をつくることで肌を弱酸性の状態に保つ働きをもちます。そのため、美肌菌が増えるとバリア機能が整いやすくなります。
美肌菌は皮脂や汗を分解し、保湿成分であるグリセリンや脂肪酸を分泌することで、肌のうるおいを保ちます。肌はうるおうとふっくらとキメが整い、透明感のある状態に。また、乾燥を防ぐことで肌トラブルやゆらぎが起こりにくくなります。
美肌菌がつくる抗菌ペプチドには抗菌作用があり、増えすぎると肌トラブルを引き起こす悪玉菌の増殖を防いでくれます。悪玉菌を減らし、美肌菌が優位なバランスを保つことで、すこやかな肌に近づけます。
美肌菌を含む皮膚上の常在菌叢「マイクロバイオーム」のバランスは、肌の状態に影響します。具体的には、下記のように変化します。
マイクロバイオームのバランス | 肌の状態 |
---|---|
美肌菌(善玉菌に分類される表皮ブドウ球菌)が多い | 肌の水分量が多い、赤みが少ない、肌の抵抗力が強い肌 |
美肌菌(善玉菌に分類される表皮ブドウ球菌)が少ない | 敏感肌 |
悪玉菌に分類される黄色ブドウ球菌が多い | 乾燥肌、アトピー肌 |
日和見菌に分類されるアクネ菌が多い | オイリー肌、ニキビやストレスによる肌荒れ |
美肌菌(善玉菌)が多いほど肌の水分量が多く、うるおった状態とされるため、美肌を目指すためには美肌菌の維持と増やすことが重要です。
美肌の鍵を握る美肌菌を増やすには、毎日のスキンケアや紫外線対策、生活習慣の見直しなどが必要です。美肌菌を増やす7つの方法を紹介していきます。
美肌菌を増やすためには、クレンジングや洗顔のやり方に気を配ることが大切です。クレンジングや洗顔の際は、美肌菌を洗い流してしまわないように、ゴシゴシと洗うのは避けましょう。
洗顔料は空気を含ませながら泡立てて、肌を包み込むように優しく洗うのがポイントです。洗顔後は泡が残らないよう、ぬるま湯でしっかりと洗い流し、タオルでそっと押さえるように水気を拭き取ります。
なお、洗顔の回数が増えるとその分だけ美肌菌が洗い流されてしまうため注意が必要です。洗顔のしすぎは肌の乾燥にもつながるので、洗顔の回数は最低限に留めましょう。その他、刺激の強い洗顔料・クレンジング剤の使用も避けた方が無難です。
肌が乾燥するとアルカリ性に傾き、悪玉菌が増殖しやすくなってしまいます。乾燥を防ぐためにも、化粧水の後には乳液やクリーム、美容液などで保湿をしっかりと行い、うるおいを補給しましょう。
また、冷暖房の使用も肌の乾燥につながります。室内の乾燥が気になる時は加湿器の使用がおすすめです。
紫外線は皮膚常在菌にダメージを与えると考えられています。美肌菌を守り、増やすためにも紫外線対策をしっかりと行いましょう。日焼け止めの使用はもちろんのこと、UVカット効果のある下地やファンデーション、UVカット効果のある帽子や衣類、日傘などの併用がおすすめです。
最近では、美肌菌を始めとするマイクロバイオームに働きかける化粧品も登場しています。マイクロバイオームの環境を整える成分には、プレバイオティクスとプロバイオティクスがあります。
プレバイオティクスは、善玉菌を増やすエサとなるオリゴ糖や食物繊維などの総称です。プロバイオティクスは肌を弱酸性に保つなど、美肌効果をもたらす成分を含む乳酸菌培養液や発酵液などを指します。
プレバイオティクスやプロバイオティクスが含まれた化粧品を使うと、マイクロバイオームのバランスを整える効果が期待できます。最近の研究では、肌に親和性の高い「植物由来」のプレバイオティクスや、プロバイオティクス成分が配合された化粧品開発も進み、注目されています。
腸内のマイクロバイオームのバランスが乱れると、肌のコンディションの低下につながります。よくあるトラブル例が便秘です。便秘になると、腸内ではアンモニアや硫化水素といった腐敗物質がつくられます。腐敗物質は血管を通じて全身を巡り、肌に到達することで、吹き出物や肌荒れといったトラブルを引き起こします。つまり、美肌を手に入れるには腸内環境を整え、肌トラブルを防ぐことも大切です。
腸内環境を整える乳酸菌などの善玉菌を含むプレバイオティクスや、腸内細菌のエサになるプロバイオティクスが含まれる食品を積極的に取り入れ、腸内のマイクロバイオームのバランスを整えていきましょう。美肌菌を増やすとされる主な食べ物は下記の通りです。
プレバイオティクス | ・玉ねぎ ・ごぼう
・アスパラガス
・大豆
・バナナ
・ブロッコリー
・キャベツ
・きのこ類
・海藻類 など
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プロバイオティクス | ・ビフィズス菌入りのヨーグルトや飲料 ・乳製品
・納豆
・キムチ
・ぬか漬け
・味噌 など
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美肌菌(表皮ブドウ菌)は皮脂や汗をエサにして増えるため、適度な運動で汗を流すことも大切です。エクササイズやヨガ、ストレッチなどを取り入れて汗をかけば、美肌菌の維持や増加につながります。
質の良い睡眠も、美肌菌を増やすことにつながります。睡眠の乱れは血行や代謝の悪化につながり、肌荒れやニキビの原因にもなるため、良質な睡眠をとることが大切です。就寝前は明かりを落としたり、リラックスできるようにアロマを活用したりと、眠りに入りやすい環境に整えると良いでしょう。
マイクロバイオームのバランスは人それぞれ異なりますが、美肌菌を増やす習慣を続けることで、美しい肌を目指せます。肌を刺激せず、必要な成分を与えるスキンケアや、バランスのとれた食事に適度な運動など、できることから試してみてはいかがでしょうか。
京都府立医科大学医学部医学科 卒業 。のべ10年以上の美容皮膚科勤務を経て、現在は関西にて美容医療に携わりながら美容や予防医学の講演活動などを行っている。医療教育にも従事し、総合的な美容医療の啓もう活動に努める。